集合住宅の次なるスタンダードへ オンリーワンの新型Wi-Fiアクセスポイント
マンション全戸一括型インターネットサービスを手がける、つなぐネットコミュニケーションズ(以下つなぐネット)では、この1月より集合住宅向けに新しい機器「脱着式Wi-Fi」の提案を始めます。現在新築のマンションでは「壁埋め込み型Wi-Fi」と呼ばれる設置方法が多く採用されていますが、「脱着式Wi-Fi」は壁埋め込み型のスマートさはそのままに、これまでオーナー様や入居者様が抱えざるを得なかった将来的なお困りごとを軽減できるものだといいます。いったいどのような仕組みなのでしょうか。
企画と開発を手がけた、アルテリア・ネットワークスの栁澤重守さんに、アクセスポイントの特徴や開発に至る経緯などをたずねました。
賃貸住宅のWi-Fiにまつわる制約をどうにかしたかった
――つなぐネットが、新たに販売するマンション全戸一括型インターネットサービス向けのWi-Fiアクセスポイントについて教えてください。
アクセスポイントについてお話しする前に、このサービスのメインの対象になる賃貸住宅のインターネットサービス事情について説明させてください。
インターネットは重要な生活インフラですから、賃貸のマンションやアパートでは入居した瞬間からつながって当たり前、さらにWi-Fi完備がスタンダードになりつつあります。つまりオーナー様が、部屋ごとにWi-Fi環境を準備するのです。
そして昨今、新築賃貸マンションで多く採用されているのが、壁埋め込み型Wi-Fiと呼ばれるもの。マルチメディアコンセントという、電話やテレビ、インターネットとつなぐコンセントの内側に取りつけるものです。壁の中にWi-Fiアクセスポイントが埋め込まれているので、スッキリと目立たないのが特徴です。
――部屋の美観を損ねないのですね。
確かにそうなのですが……、通信を提供する立場からすれば、メリットは“それだけ”なんですよ(笑)。あとは市販されているWi-Fiルーターのような、置き場を必要としないくらいで。
設置には電気工事が必要ですし、壁の内側は熱がこもりやすいですから、アクセスポイントが放出する熱を抑えるために通信速度を抑える必要があります。それに故障などでメンテナンスするとなると、保守工事の日は入居者様に部屋にいてもらう必要があります。うまくスケジューリングできないとWi-Fiを使えない状態が長く続くことになり、かえって不便をかけることになりかねないのです。
――それで新しいWi-Fiアクセスポイントをつくろうとなったのですね。
そのとおりです。先ほど挙げた課題をうまく解消したかったのがひとつ、そして設置の形状を変えることで、私たちが提供するサービスのポテンシャルをもっと引き出せるはずだと考えました。
たとえば、今出回っている壁埋め込み型Wi-Fiに使われているICチップって、ものすごく性能が高いんです。オフィスや施設のWi-Fi関連機器に用いられるのと同じもので、家庭用には正直もったいないくらい。けれども壁埋め込み型Wi-Fiには先ほど申し上げたとおり、放熱面での制約があります。それでアクセスポイントの仕様を、本来発揮できるレベルよりセーブさせているのが実情です。
確かに壁埋め込み型Wi-Fiは、見た目はスマートかもしれません。でも想像してみてください。多くの人は部屋のレイアウトを決めるとき、マルチメディアコンセント自体を、家具やボックスなどで隠そうとしますよね。それならば、Wi-Fiアクセスポイントを壁の内側に仕込む必要はなく、表に出してしまう脱着式のほうが、機能性も利便性も高まると考えました。
今回はメーカーにアクセスポイントのアイデアを提供し、アルテリアグループのみが販売権を持つ形で、オリジナル商品を開発してもらいました。
電気工事の必要なし! ユーザーの使い勝手をとことん考え抜いた
――このアクセスポイントの特徴を教えてください。
何よりマルチメディアコンセントにLAN端子があれば、プラグを差し込むだけで、Wi-Fiを使えるようになるところですね。
脱着式Wi-Fiの仕組みそのものは、既に世の中に存在し、商品化されています。脱着式でありながら、アクセスポイントの土台にあたる電源ユニットを、あらかじめ壁に埋め込むタイプのものもありますね。コンパクトなので「スッキリと目立たない」壁埋め込み型Wi-Fiのメリットを受け継いでいます。ただ、アクセスポイントの故障は電源が原因になることがほとんど。電源ユニットを修理するとなると電気工事が必要になり、運用面では壁埋め込み型Wi-Fiとあまり変わらないのです。
その点、今回リリースするアクセスポイントは、一般的なマルチメディアコンセントで対応できるものです。特別な工事を必要とせず、入居者様自身で設置できます。そのためアクセスポイントが故障したとしても、代替機を送り、取り換えるだけでよいのです。また数年に一度更新される、Wi-Fi規格にも対応しやすくなります。これは入居者様にとってもオーナー様にとっても、大きなメリットといえるでしょう。
――特許を取得した機能もあるそうですね。
そうなんです。本体にディスプレイを設けて、SSIDとパスワードを変えられる仕様にしました。SSIDとパスワードを変更するには、スマートフォンやパソコンをWi-Fiへ接続し、機器の設定画面から入力操作をするのが一般的ですが、Wi-Fiやネットに不慣れな人にとっては難易度が高い場合もあります。でもこのアクセスポイントなら、操作も本体のボタンを押すだけ。スマホにアプリをインストールする必要もありません。
賃貸住宅では、新しく入居された方が、前に入居していた方と同じSSIDやパスワードを使うことに難色を示される場合もあります。そうした方が、簡単にSSIDとパスワードを変更できるような機能を搭載しました。
ディスプレイの搭載は、同じチームの開発メンバーのアイデア。本体にディスプレイがあると「アクセスポイントにパソコンをつないで設定画面にアクセスする」という、ほとんどの人が大嫌いな(笑)プロセスを回避することができます。意外にも、ありそうでなかったギミックだったんです。
――今だから話せる、開発の裏話があれば教えてください。
プロジェクトが立ち上がり、アクセスポイントが日の目を見るまで、実は4年近くかかっています。最も大変だったのは、アルテリア・ネットワークスの社内でGoサインをもらうこと。役員へのプレゼンがなかなか通らなかったのです。
脱着式Wi-Fiのアイデアについて、実際サービス提供を行う立場であるつなぐネット側の反応は悪くありませんでした。日ごろデベロッパーやマンションの管理会社など、当事者と近い距離にある方々と接している分、賃貸住宅のWi-Fiに対する問題をリアルに捉えることができるんですよね。けれどもサービス開発を担うアルテリア・ネットワークス側には、なかなか意図が伝わりにくい。自分たちでアクセスポイントをつくり、サービスを変えることになりますから、慎重になるのも当然のことです。どう温度差を埋めるかが課題でした。
企画書もどれだけ書き直したことか(笑)。ヒアリング調査で大阪まで出向いたり、試算を繰り返して採算性を証明したりと、いろんな観点からニーズと効果を検証していきました。そうした中、役員たちと粘り強く交渉し、時に批判の矢面に立ってくれたのは、直属の上司である部長です。たまに意見がぶつかることもあるのですが(笑)、「賃貸住宅のWi-Fiを何とかしたい」という思いは一致していたんですよね。
ナンバーワンからオンリーワンへ 新スタンダードの可能性も
――部長がいちばんの味方となってくれたのですね!
やっぱりありがたかったし、頼もしかったですよね。また企画が無事に通ってからも、アクセスポイントの形が決まるまでは試行錯誤が続きました。実は企画を立ち上げた当初は、私たちも電源部分を壁に埋め込む形を想定していたんです。それから本体面を広くしてみるなど、いろんな形状を模索しました。
今のアクセスポイントの原型も、最初は紙工作です。自宅でコンセントにつけたときのイメージを撮影してね。その画像を見せたことで、なかなか理解を得られなかった相手に、「そういうことか!」と伝わったときはうれしかったですね。メーカーとの開発過程でも何度も検討して。色や素材の質感、LANケーブルを格納させるためのくぼみまで、こだわりの詰まったアクセスポイントになっています。
――紆余曲折を経て、いよいよ販売開始です。
今回の企画は、アルテリアグループにとって大きな挑戦であることはいうまでもありません。なぜならマンション向けインターネットサービス事業で、ようやくオンリーワンのサービスを展開できるようになるからです。
つなぐネットはおかげさまで、マンション全戸一括型インターネットサービス11年連続シェアNo.1※を獲得しています。多くのお客様が私たちを信頼し、価値を認めてくださっている証だといえるでしょう。本当にありがたいことですし、私たちも誇りに感じているのは確かです。
けれどもマンション向けインターネットサービスは、どの会社も横並びなのが現状です。差別化できる要素といえばニーズに沿った細やかな対応とこれまでの実績、すなわちつなぐネットの営業努力によって支持を得ているに過ぎません。サービスのコモディティ化は価格競争を招くことになり、市場全体を考えてもいい状況とは言い難い。どこかで頭ひとつ飛び抜ける、個性を必要としていたのです。
今回提案する脱着式Wi-Fiは、アクセスポイントの価格だけを見ると割高に映るかもしれません。けれども設備工事や特別なコンセントを必要としませんし、Wi-Fiの通信品質が上がります。加えてアクセスポイントが故障するリスクも、メンテナンスにかかる負荷も大幅に下がります。中長期的に見れば、オーナー様にも入居者様にも高いベネフィットを約束できるものです。
唯一無二の製品なだけに、どれだけ市場に受け入れられるか未知な部分もあります。けれどもこの形が壁埋め込み型Wi-Fiに代わって、賃貸住宅のスタンダードになることを願っています。